<AIJ年金消失問題> 証券監視委、アイティーエム証券を強制調査へ ― 預かり資産で損失穴埋めの疑い(日経)

強制調査が始まります。 以前からたびたび問題を起こしていたアイティーエム(ITM)証券です。 代表取締役は旧山一証券出身の西村 秀昭氏です。  ITMとAIJ同じビルに入居しています、ITMが7階でAIJが8階。 同時にAIJも操作すれば手間が省けると思うんですが、人手が足りないんでしょうか…..? 

以下、日経の記事。

AIJ系証券を強制調査へ 預かり資産で損失穴埋め
証券監視委
(日経 2012/3/20 2:00)

AIJ投資顧問による年金消失問題で、AIJが運用していた年金資産のうち約10億円が、同社の営業を担当していたアイティーエム証券(東京・中央)に出資金名目で流れていたことが19日、関係者の話で分かった。証券取引等監視委員会は同証券についても金融商品取引法違反(契約に関する偽計)容疑で、AIJとともに近く強制調査する方針を固めた。

預かり資産から拠出された出資金の一部は同証券の株取引などの損失穴埋めに充てられた疑いが強く、監視委も一連の経緯を把握しているという。

関係者の話によると、アイティーエム証券は2002~03年ごろ、株取引の失敗などで数億円の損失を計上。資金繰り改善のため04年までに、AIJを引受先とする約10億円の第三者割当増資を数回に分けて実施した。

AIJは英領ケイマン諸島に登記した私募投資信託などを通じて同証券へ出資したが、原資は投資一任契約を結んでいた各企業年金基金からの預かり資産の一部などを充当。同証券は払い込まれた約10億円のうち数億円を損失穴埋めに使った疑いがあるという。

AIJグループの傘下となった同証券は03年5月ごろから、各年金基金への営業活動を始めるとともに、契約時の販売手数料などを受領。各年金基金が運用資金を預けていた国内の信託銀行に、運用実績を報告するなどの役割も担うようになったという。

監視委は、約10億円の原資について同証券が顧客からの預かり資産であると認識しながら自社の損失穴埋めに充てた疑いがあるほか、AIJと一体となって勧誘を繰り返していたとみている。

これまでの監視委の調べによると、AIJが保有する資産は約240億円で、このうち返還可能な資産は約60億円とされる。AIJが第三者割当増資の際に引き受けた約10億円の株券は、残り約200億円の資産の一部を占めるが、未上場である同証券株は時価の算定が難しいため換金は困難とみられる。

http://www.nikkei.com/news/headline/article /g=96958A9C93819695E3EBE2E69E8DE3EBE2E1E0E2E3E09F9FEAE2E2E2

=================================================================
代表取締役 西村 秀昭
1955年、東京都生まれ。79年に山一証券入社。85年、山一オーストラリアシドニー支店株式部長および、89年同メルボルン支店長として、主に政府機関の債券発行やM&A(企業吸収・買収)で活躍。92年、山一證券本社外国法人部課長、94年同事業法人部次長。欧米大手ヘッジファンドの日本証券営業や、本邦大手企業のファイナンス・資金運用等を担当。98年1月、同社を退社し、アイティーエム証券の設立準備へ。同年6月に、アイティーエム証券を設立。 英語社名 ITM Securities Co., Ltd.   http://www.itm.co.jp/profile/message.html
=================================================================

そういえば、19日の毎日新聞がAIJ問題で四つの不審点をあげ、よくまとめて書いてます。

年金消失:不審な4点、なぜ放置 AIJ問題の情報提供者、金融当局を批判
(毎日新聞 2012年3月19日 東京朝刊)

AIJ投資顧問による年金消失問題で、問題発覚前に金融当局へAIJを疑問視する情報提供をしていた複数の金融関係者が毎日新聞の取材に応じ「当時なぜ検査に入らないか疑問に思った」と、金融当局の対応の遅さに批判をにじませた。金融庁や証券取引等監視委員会へは05年以降、格付け会社からや、他に計4件の情報提供があった一方、AIJの検査に至ったのは今年1月。情報提供した金融関係者らの話を総合すると、AIJの運用では主に四つの不審点が指摘されていた。【町田徳丈、松田真】

 ◇取引高は「年57兆円」

金融関係者らが疑問を抱いたのは、受託資産の規模に対する取引高の多さだ。

AIJの事業報告書などによると、約2000億円の年金資産を運用する一方、金融派生商品などの取引高は延べ57兆円(2010年)。金融関係者の一人は「今日買って今日売る『日計り』を繰り返しても、2000億円なら月に市場が開いている20日間で12カ月運用して48兆円」。AIJはデイトレーダー並みに頻々と取引していた計算となる。

別の金融関係者は「年金のようにリスクコントロールが求められる運用としては問題がある」と指摘する。

 ◇資産管理会社は「身内」

資産を運用する場合は受託した投資顧問会社とは別に、資産の「管理会社」が運用利回りなどを算出し、信託銀行などを介して投資家へ報告する。仮に運用に失敗した場合、もし管理会社が投資顧問会社と結託してうそをつけば投資家は見破れない。このため「管理会社は投資顧問会社から独立していることが大前提」(金融関係者)とされるが、今回のケースでは管理会社の役員をAIJの浅川和彦社長が兼ねていた。

この管理会社は英領バージン諸島に設立された「エイム・インベストメント・アドバイザーズ」。金融関係者は「こういう仕組みを持っているのは日本にはない。身内だけで固められたら、いくらでも損失を隠し通せてしまう」と顔をしかめる。

 ◇少なすぎる運用報酬

運用資産2000億円に対し、運用受託報酬が7900万円(10年)と少ないことも金融関係者は疑問視する。

「報酬は、非常に堅い『パッシブ運用』でも0・3%くらいで、AIJのように積極的な『アクティブ運用』なら0・7%は取る。そうすると14億円。うまく回っているなら成功報酬もあるからもっと多い。これ(が疑問なこと)を金融庁はなぜ見ないのだろう」

AIJの販売資料に記載された運用手数料(報酬)は1・5%。ただし報酬については「AIJの外(の関連会社)で落ちる仕組みでは」(別の金融関係者)との指摘もある。

 ◇現金保管場所は不明

AIJ側は、現金を担保にした「証拠金取引」を巡り、現金を保管している金融機関について金融関係者から質問され「言えません」と答えたという。

この金融関係者は「グループの中で(不透明な)融資をしていないかとか、資金が横流しされていないかという可能性も考えて聞いたが明確にされず、AIJは危険な企業と判断した。ただし証拠があったわけではなく、金融庁に動いてほしかった」と話している。

http://mainichi.jp/select/jiken/news/20120319ddm041020161000c.html

当ブログのAIJ問題関連記事リンク:

■ 浅川社長、高橋成子取締役の役員報酬は一体いくらだったのか?(毎日vs日経  (投稿日: 2012-03-24)

■  受託金最終運用はシンガポールの証券証券会社だった (日経3/22)  (投稿日: 2012-03-22)

■ 証券監視委、アイティーエム証券を強制調査へ ― 預かり資産で損失穴埋めの疑い(日経)  (投稿日: 2012-03-20)

■ <AIJ、衆院参考人質疑> こんなジジ達に質疑して何の意味がある。衆院財務金融 委員会のパフォーマンス、税金の無駄づかいだ! 
(投稿日: 2012-03-14)

■ そのカラクリはこうだ、スキーム図解! 解約用に資金プールも…  
(投稿日: 2012-3-9)

■ あえぐ年金基金、むらがる野村OB、はびこる社保庁OB天下り 
(投稿日: 2012-3-6)

■ <AIJ、旧社保庁OBの関与> 旧社保庁幹部23人が厚生年金基金に天下り  (投稿日: 2012-03-03)

■ 「AIJ投資顧問」企業年金資金消失問題に思う  (投稿日:2012-2-26)

<AIJ、年金消失問題> そのカラクリはこうだ、スキーム図解! 解約用に資金プールも…

私の前書きの後に以下の記事を掲載する。

『AIJ、解約用に資金プールか 監視委「自転車操業」』(西日本新聞 2012年3月9日 02:04
『AIJ 実体ない会社通し運用報告』(NHK 3月9日 5時20分)
『AIJ運用資産、関連会社が評価改ざんか』(日経 2012/3/8 2:00)

「解約用に資金プール…自転車操業」というのは今回の事件がまさに詐欺ケース「ホンジ・スキーム」の典型だという事を示唆している。 こういう事件が起きるとその構図を称して「スキーム」という言葉が使われるがスキーム―とは英語だと「scheme」(計画、構想、悪巧み、陰謀、図表、図解、地図)。 今回の場合だと Conspiracy Scheme (策謀)といいたいのだが、経済用語として「スキーム」が通用している日本では誰も聞いてくれそうもない。

ポンジ・スキーム (Ponzi scheme)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%BB %E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%83%A0

破滅を運命づけられた詐欺の手法「ポンジ・スキーム」
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2550172/3617338

それではそのスキームはとういうと日経が図解してくれいる、ただし現時点での一部と考えるべきだろう。


「自転車操業」、「実体ない会社通し運用報告」、「関連会社が評価改ざん」、これらは既にある程度報道されているが日経が今回記事にしている構図は具体的に「エイム・インベストメント・アドバイザーズ」の名前を出している。 実はこの名前はAIJがそのHPに掲載している事業報告書の2ページ目に出ているのだ。 そこには英語で「AIM Investment Advisors Ltd 」と表記されており、AIJの浅川和彦社長と高橋成子取締役がAIM Investment Advisors Ltdの取締役を兼務していると表記されている。 (事業報告書のPDFは http://www.aim-ij.com/20120224-22rep.pdf)。 では、その会社の社長は誰なのか? その人物がキーパーソンのように思われて仕方ないのだが、捜査で解明されるまでは分からないことなのか….

AIJ、解約用に資金プールか 監視委「自転車操業」
(西日本新聞 2012年3月9日 02:04)

AIJ投資顧問(東京)の年金資産消失問題で、AIJが預かった年金資産の一部を運用に回さず、解約に応じるための資金としてプールしていた可能性があることが8日、分かった。AIJと取引のある信託銀行が問題の発覚後、AIJ傘下の証券会社の口座を調べ、本来存在しないはずの残高を確認した。

関係者によると、口座には昨年12月時点で、少なくとも数十億円程度が残されていた。

証券取引等監視委員会は、「解約する客にうその利回り分を上乗せして支払うため、新しい客のカネを流用する、自転車操業だった」(監視委幹部)とみて、出入金記録と運用の実態解明を急ぐ。

http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/290913

AIJ 実体ない会社通し運用報告
NHK 3月9日 5時20分

預かった企業年金の資金のほとんどがなくなり、問題になっているAIJ投資顧問は、海外での資金運用でどのような実績が出ているかについて、社長がみずから設立した実体のないグループ会社を通すことで、順調に利益が出ているように装う報告を続けていたことが分かりました。

AIJ投資顧問は、企業年金基金から預かった資金をカリブ海のケイマン諸島などにファンドを設定し、現地の信託銀行に資金の管理を委託していました。

運用でどれだけの収益や損失が出ているかは、通常は現地の信託銀行から定期的に日本に報告されますが、AIJ投資顧問は浅川和彦社長が設立した実体のないグループの「管理会社」を通して最終的に顧客に報告する仕組みにしていました。
AIJ投資顧問が顧客に出した「販売説明書」では、海外での運用に本格的に乗り出した2004年の時点で、すでにこうした仕組みが取られていたことが記載されています。

この仕組みは、現地の法律などに違反はしていないということですが、関係者によりますと、身内の「管理会社」を通すことでほとんどの資金がなくなっている実態を隠して順調に利益が出ているよう報告を改ざんしていたということです。
AIJ投資顧問のこうした一連の仕組みについて、専門家は「資金を預かる運用担当者はきれいな収益の実績をみせたくなるものだ。投資家は第三者の監視があるのか確かめることが必要だ」と話しています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120309/t10013593731000.html

AIJ運用資産、関連会社が評価改ざんか
第三者のチェック排除
2012/3/8 2:00

AIJ投資顧問が年金資産の大半を消失させた問題で、同社が運用指示していた私募投資信託の資産評価を海外にある実質的なグループ会社に任せていたことが判明した。この会社が投資先の資産評価を改ざんし、虚偽の情報を顧客に伝えていた公算が大きい。運用や資産評価という私募投信の運営に不可欠な中核業務をグループで囲い込み、第三者によるチェックを巧みに排除する仕組みを作り上げていた。

日本経済新聞が7日までに入手した資料などで判明した。このグループ会社は英領バージン諸島に設立された「エイム・インベストメント・アドバイザーズ」。浅川和彦社長らAIJ投資顧問の幹部が同社の取締役を兼務しており、実質的なグループ会社にしていた

AIJ投資顧問は英領ケイマン諸島で設定した少数のプロを対象にした私募投信を年金資金の受け皿にしていた。エイム社はAIJの運用指示を受け、株や金融派生商品など投資商品を証券会社などに発注したり、投資対象の時価を調べて資産評価したりする役割を担っていた。私募投信の時価を示す基準価格はエイム社の資産評価に基づいて算出。AIJの営業を担当していたアイティーエム証券(東京・中央)に伝えられ、信託銀行などを通じて顧客の年金基金に報告されていた。

私募投信が投資対象にしていたとされるのは、株価指数に連動した金融派生商品や未公開株などだ。日々の市場で値が付く上場株と違い、時価による資産評価は難しい。評価の難しい資産については第三者の会社などに任せたうえで、複数の証券会社が提示する時価の平均値などに基づいて資産評価するのが一般的とされる。AIJはこうした第三者を起用せずにグループのエイム社に資産評価を任せていた。第三者がAIJの資産内容をチェックするのを巧みに排除するために作り上げたとみられ、今回の虚偽報告の温床になった可能性が高い。

運用会社が節税効果などを狙ってケイマンなど租税回避地でファンドを設定することは珍しいことではない。AIJのようにグループ会社に資産評価を任せること自体は違法ではないが「顧客との利益相反を排除したり、第三者のけん制を働かせたりするのが難しい。通常はあり得ない仕組みだ」(国内独立系投資顧問の幹部)との声が多い。

証券取引等監視委員会や金融庁もこうした構図は把握しているもようで、AIJ問題の全容解明を急いでいる。

http://s.nikkei.com/yIcEgz

◇ 続報 ◇

AIJ、客だまし損失付け替えか
(NHK 3月10日 18時17分)

「AIJ投資顧問」が預かっていた企業年金の資金のほとんどがなくなっていた問題で、AIJ投資顧問は、価値が大幅に目減りしている金融商品を新規の客に高値で買い取らせ、損失を付け替えていたことが関係者への取材で分かりました。証券取引等監視委員会は、客をだまして契約していた疑いが強いとして、今月下旬にも強制調査に乗り出す方針を固めました。

「AIJ投資顧問」が預かっていた企業年金の資金のほとんどがなくなっていた問題で、AIJ投資顧問は、価値が大幅に目減りしている金融商品を新規の客に高値で買い取らせ、損失を付け替えていたことが関係者への取材で分かりました。証券取引等監視委員会は、客をだまして契約していた疑いが強いとして、今月下旬にも強制調査に乗り出す方針を固めました。

東京の投資運用会社「AIJ投資顧問」は運用していたとするおよそ2000億円の企業年金の資金のほとんどがなくなっていることが分かり、業務停止の処分を受けました。 浅川和彦社長は、証券取引等監視委員会に対し、運用に失敗して巨額の損失を出したと説明しているということです。関係者によりますと、AIJ投資顧問は巨額の損失が出ているのに、利益が出ているとうそを言って客を勧誘していました。 そして新規に契約することを決めた客には、価値が大幅に目減りしている金融商品を帳簿上の高い価格で買い取らせて損失を付け替えていたことが分かりました。一方で預かった資金は、契約を解除した別の客への払い戻しに充てられ、運用がうまくいっているよ見せかけていたということです。 証券取引等監視委員会は、新規の客をだまして契約していた疑いが強いとして、今月下旬にも金融商品取引法違反の疑いでAIJ投資顧問の強制調査に乗り出す方針を固めました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120310/t10013629421000.html

当ブログのAIJ問題関連記事リンク:

■ 浅川社長、高橋成子取締役の役員報酬は一体いくらだったのか?(毎日vs日経  (投稿日: 2012-03-24)

■  受託金最終運用はシンガポールの証券証券会社だった (日経3/22)  (投稿日: 2012-03-22)

■ 証券監視委、アイティーエム証券を強制調査へ ― 預かり資産で損失穴埋めの疑い(日経)  (投稿日: 2012-03-20)

■ <AIJ、衆院参考人質疑> こんなジジ達に質疑して何の意味がある。衆院財務金融 委員会のパフォーマンス、税金の無駄づかいだ! 
(投稿日: 2012-03-14)

■ そのカラクリはこうだ、スキーム図解! 解約用に資金プールも…  
(投稿日: 2012-3-9)

■ あえぐ年金基金、むらがる野村OB、はびこる社保庁OB天下り 
(投稿日: 2012-3-6)

■ <AIJ、旧社保庁OBの関与> 旧社保庁幹部23人が厚生年金基金に天下り  (投稿日: 2012-03-03)

■ 「AIJ投資顧問」企業年金資金消失問題に思う  (投稿日:2012-2-26)

 

「AIJ投資顧問」企業年金資金消失問題に思う

「AIJ投資顧問」のHPで公開されている事業報告書を見ただけでも投資一任契約しようとは思えないのだが…

2千億円にも及ぶ資金消失は「AIJ年金資金消失事件」と呼んだ方がよさそうだ。 詳細、続報は各紙が行っているので敢えて述べることもあるまい。 新聞報道によると投資運用業者は299社あるそうだが、「社団法人 日本証券投資顧問業協会」のHP掲載情報によると『平成23年3月末現在の会員数は、749社(投資運用会員247社、投資助言・代理会員502社)で、バラエティに富み、また国際色あふれた組織となっています。』 だそうである。

今回の事件のように投資一任会社に投資運用を任せている資産総額は以下のように149兆1,233億円もある。

「投資運用会員に関わる統計数値」(日本証券投資顧問業協会) http://jsiaa.mediagalaxy.ne.jp/profile/pdf/youran23/hyousimokuji.pdf)

平成22年6月末比で5兆4,720億円/+3.81%増となっているが会員業者の報告を集計しただけなのだから、こういう事件が起きてからでは怪しいものだ。

日本証券投資顧問業協会の掲載している「投資運用会社要覧」を見れば AIJ の登録情報が読むことが出来る。 http://jsiaa.mediagalaxy.ne.jp/profile/pdf/youran23/12a.pdf の112~116ページに記載されている。 115ページに記載されているAIJの「投資哲学」「運用戦略」にはこう書かれている。

赤線を引いているところに注目してもらいたい。 「オルタナティブ運用」はヘッジ・ファンドがやる取引つまりAIM (Alternative Investment Market 1995年にロンドン証券取引所に創設された中小企業向けの新興市場) を示唆しているし、「派生商品による運用」、「日経225オプション」はデリバティブのオプション取引を示唆している。 いわゆる差金決済(レバレッジ効果)を使った極めてリスクの高い金融商品だ。

レバレッジの失敗による巨額の損失で破たんした例は一杯ある。 1995年に破綻し、イギリスの名門投資銀行ベアリングス、金融工学を駆使した取引(デリバティブ)で大損失を出し1994年に財政破綻を起こしたことがある米国カリフォルニア州・オレンジ郡。 リーマンズ・ショックでレバレッジ破たんした例も記憶に新しいはずだ。

収益の悪化に苦しむ企業年金基金がが投資顧問会社が示した高利回りにだけ目をやり貴重な年金を「投資一任」するとは、正に貧すれば貪するというもので、丁半博打の賭場に金を置いたに他ならない。 詐欺商売していたAIJが一番悪いに決まっているが、企業年金基金の責任者は「高利回りだったし、好成績の運用という報告しか受けていなかったので…」では済まされない、何故ならハイリスク・ハイリターン金融商品だという事を知っていなければならない義務がある。 次にこのAIJを選び、一任した責任がある。 はたして年金基金の責任者は一度でもAIJの年次事業報告書を読んだことあるのだろうか? 恐らくないだろう。 事業報告書はAIJのHP でいつでも見ることができる。 以下、事業報告書(JPG版、クリックで拡大を掲載する。

この事業報告書を読むと私のような門外漢でも気付くポイントが数点ある。

    

  • (1列中央参照)  AIJの浅川和彦代表取締役と高橋成子取締役は「兼職の状況」の欄に「AIM Investment Advisory Ltd」の取締役兼務を明記している。 果たして、この会社がなんなのか年金基金の諸氏はその裏をとったか。 ネットを調べれば分かるがケイマン諸島あ たりの胡散臭い投資会社に行き着く。

              

  • (2列左端参照)  「投資哲学」、「運用戦略」では恐らく意図的にデリバティブという言葉を出さないようにしていたのだろうが、この事業報告書は国の指定した書式なので「デリバティブ」が明記されている。 ここで基金側の人間は「レバレッジ」のリスクがある投資運用をしていると気付かなかったのか。 AIJの投資運用の詳細を確認すべきではないか。

    

  • 2列右端から3列、下の4列左端までは決算報告書であが外部監査を受けたものではない。 大金を扱う会社のそんな決算報告書を鵜呑み にするか? 金融取引法は「投資助言・代理業を行う者は、事業年度ごとに事業報告書を作成し、毎事業年度経過後3か月以内に提出する」と定めているが外 部監査を必要としていない。 これも大問題だ。 金融庁の査察云々よりも、外部監査なしで事業報告書を可とする金融取引法はザル法ではないか。

    

このブログに書いていることはこの事件が起きてからの後出しジャンケンではない。 もし私が数億、数十億のお金を一任投資するなら当然、事前にやる最低限度のことだ。 また、以上のことは1時間もしないで出来ることだ。 こういう事もしないで一任投資するのは、オレオレ詐欺に引っかかるジジ、ババ様達と同程度ではなかろうか。

この事件を機に金融庁は投資顧問会社の一斉調査をするそうだが、企業年金基金が「一任投資」している帳簿上の資産149兆1,233億円の5%がAIJのようだと7兆円は吹っ飛んでしまう事になる(既に吹っ飛んでいるかも知れない)。 金融取引法を改正して事業報告書の外部監査を義務付けるべきだ。 次に、「日本証券投資顧問業協会」が何のためにあるのかが問題だ。 その目的の一つに「投資者の保護」をうたっているが、会員証券投資顧問業社をチェックする機能は不全、単に財務省や金融庁の天下り先になっているだけではないのか。

日本のあらゆる組織全体の最大の欠点、それはチェック・アンド・バランスというシステムの欠如であると私は思う。 さらに、企業年金基金は高度成長時代の残滓でしかない、さっさと解散・消滅した方がいい。 これからの時代に高い利回り求めるのは夢のまた夢、ギャンブル以外の何物でもない。

[追記]  ブログ執筆中で気付かなかったが、ウォールストリートジャーナルが以下の記事を配信していた。

「格付け機関が09年に「日本版マドフ」と警告 AIJ運用資産消失
(WSJ 2012年 2月 25日)

【東京】運用していた企業年金資産の大半を消失させた投資顧問会社、AIJ投資顧問について、 格付け会社の格付投資情報センター(R&I)が2009年に発行したニュースレターの中で米国の巨額金融詐欺事件になぞらえて、日本のマドフ事件になりかねないと警告していたことがわかった。

日本の金融当局は24日、AIJが運用する年金資産1830億円の大半が消失しているとして、同社に業務停止命令を出した。

R&Iは2009年の顧客向けニュースレターの中で、市場が落ち込んでいるにもかかわらず、AIJの運用利回りは不自然に安定していると警告した。ニュースレター「年金情報」編集長の永森秀和氏は、ニュースレターでは名指しこそしなかったものの、ほとんどの年金専門家にとってはAIJだとわかるような書き方だったと述べた。

R&Iがニュースレターで警告する1年前に、R&Iが実施した年金基金の顧客満足度調査ではAIJが1位となった。投資業界に詳しい複数の銀行関係者によると、AIJが常に高収益を上げていることは大手の資産運用会社の間で知られていたという。

「年金情報」の永森氏はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、R&IがAIJについて懸念を抱いたのは、同社の運用利回りが市況がどのような状況でも10年にわたって平均リターンを上回っていると年金基金の顧客から聞いてからだったと述べた。永森氏は日本の金融当局者ともこの懸念について議論したと述べた。

永森氏によると、複数の年金基金の顧客がR&Iに示した報告書では、AIJは運用する3つのファンドが2009年から2011にかけておよそ5%から10%の年間利回りを達成したと主張していたという。永森氏は、日本の投資運用会社のうち3年連続でプラスの収益を上げていたところはほとんどなかったと述べた。

投資運用業界内部ではAIJについて疑問の声が上がっており、怪しいところがあるとの見方が出ていたことから、警告を発する必要があると感じたと永森氏は話している。

あまり知られていなかった投資顧問会社で今回、多額の運用資産消失問題が起きたことは、日本の金融監督状況の実態を浮き彫りにしている……(cont’d)

http://jp.wsj.com/Japan/node_398677

当ブログのAIJ問題関連記事リンク:

■ 浅川社長、高橋成子取締役の役員報酬は一体いくらだったのか?(毎日vs日経  (投稿日: 2012-03-24)

■  受託金最終運用はシンガポールの証券証券会社だった (日経3/22)  (投稿日: 2012-03-22)

■ 証券監視委、アイティーエム証券を強制調査へ ― 預かり資産で損失穴埋めの疑い(日経)  (投稿日: 2012-03-20)

■ <AIJ、衆院参考人質疑> こんなジジ達に質疑して何の意味がある。衆院財務金融 委員会のパフォーマンス、税金の無駄づかいだ! 
(投稿日: 2012-03-14)

■ そのカラクリはこうだ、スキーム図解! 解約用に資金プールも…  
(投稿日: 2012-3-9)

■ あえぐ年金基金、むらがる野村OB、はびこる社保庁OB天下り 
(投稿日: 2012-3-6)

■ <AIJ、旧社保庁OBの関与> 旧社保庁幹部23人が厚生年金基金に天下り  (投稿日: 2012-03-03)

■ 「AIJ投資顧問」企業年金資金消失問題に思う  (投稿日:2012-2-26)