盗んでも食べたい<土用の丑の日の『うな重』>、容疑者「食べたかった」⇒「ニッポンが世界のウナギを食い尽くす日」=土用の丑の日

国産ウナギの「うな重」の万引きで、茨城県境町の43才・無職の女が29日、窃盗の疑いで現行犯逮捕された。中国産より値段の高い国産を食べたかったそうだ。 盗んでも食べたいウナギ――日本人はウナギを食い尽くすのか? 日本は、世界のウナギ消費の7割を占めるとされる。 日本人はウナギの生息数が回復するスピードを超えて取り、食べ続けてきた。 漁獲量が明確に落ち込んだ1980年代以降、日本人の胃袋は、その代替をヨーロッパウナギなど異種の海外からの輸入に求め、輸入ウナギをパック詰めした冷凍かば焼きが大量に出回るようになった。その結果、ヨーロッパウナギが2009年にワシントン条約で国際取引の規制対象になり、今は、代わりの輸入先を東南アジアなどに求める業者が現れ、ビカーラウナギなど別のウナギの減少も招いている。

国内のシラスウナギ(稚魚)の年間漁獲量のグラフ以下は「うな重」窃盗現行犯逮捕を伝える朝日の記事、そして日経の記事「ニッポンが世界のウナギを食い尽くす日」のクリップ記事――

土用の丑にうな重盗んだ疑い 容疑者「食べたかった」
(朝日新聞 2014年7月29日18時29分)

土用の丑にうな重盗んだ疑い 容疑者「食べたかった」(朝日新聞7月29日)スーパーマーケットからうな重などを盗んだとして、茨城県警境署は29日、境町の無職の女(43)が窃盗の疑いで現行犯逮捕されたと発表した。「土用の丑(うし)の日なのでウナギが食べたかった。中国産より値段が高い国産を盗んだ」と容疑を認めているという。

署によると、女は29日午後1時20分ごろ、茨城県境町のスーパーマーケット「カスミ境店」の総菜コーナーからうな重(2246円)や、から揚げ、コロッケなど計42点(総額8945円)を万引きした疑いがある。着ていた薄手のパーカの中で抱きかかえるようにして商品を隠しており、様子を見ていた警備員の女性(53)に店内から出たところで取り押さえられたという。

http://www.asahi.com/articles/ASG7Y5V63G7YUJHB020.html?iref=com_rnavi_srank

ニッポンが世界のウナギを食い尽くす日_画像1ニッポンが世界のウナギを食い尽くす日
(日経 2014/7/7 7:00)

7月29日の土用の丑(うし)を前にウナギ消費が盛り上がってきた。ここ数年続いた稚魚の不漁で価格が高騰したが、漁獲高が回復した今年は安くなる可能性が出てきたのだ。一方でニホンウナギが絶滅の恐れがある「レッドリスト」に指定され、「ウナギ消費大国」ニッポンへの世界の視線は厳しくなっている。不漁、回復、絶滅危機――。いったいウナギに何が起きているのか。ニッポンはウナギを食べ続けることができるのか。

今年限りの活況?

東京・北千住の目抜き通りにあるうな丼チェーン店「名代 宇奈とと」。昼時になるとサラリーマンや周辺住民でごった返す。なれた手つきでかば焼きをあぶる店員。煙と香ばしいにおいは、店内だけでなく外へも流れ、道行く人の食欲を刺激する。

大半の客のお目当ては一杯1000円(税込み)の「うな丼ダブル」。肉厚のかば焼きが2つ乗っている。7月上旬、東京電機大学の男子学生4人が奥のボックス席を陣取っていた。「2週に1回は来ている。仕送りの身で1食1000円はつらいが、やめられない」

さらに50メートル先に進むと、今度は「すき家 北千住西口店」が掲げる「うな牛」の大きなポスターが目に入ってきた。ウナギのかば焼と牛丼の具が相盛りになっており、価格は1杯830円(税別)。近くの会社に勤める20代の女性は、この弁当を5、6個注文していた。「今日は部長のおごりなんです」とうれしそうだ。

こうしたチェーン店のうな丼の価格は、おおむね700~1000円と牛丼の並盛りの2倍以上もするが、この時期になると客足は途絶えない。先安観にもかかわらず、「今シーズンのウナギの調達は既に終えているので、今から値段を変えることはない」(吉野家)と強気でいられるのも、日本人のウナギ好きに支えられてのことだろう。

ニッポンが世界のウナギを食い尽くす日_画像2一方、首都圏のスーパーではゴールデンウイーク頃から1匹1000円前後の中国産かば焼きが目立ち始めた。店によっては前年の半額に近い。稚魚であるシラスの漁獲量の回復でウナギ卸値の下落が続いているためだ。

ウナギ料理専門店も笑顔を取り戻している。昨年までは、うな重2000円を4000円、5000円を1万円にするような大幅な値上げをしてきたが、それでも原料ウナギの高騰に追いつけず、老舗の廃業が相次いでいた。「相場が落ちつけば、ようやく正常な商売ができる」。福岡県北九州市の人気店「田舎庵」社長の緒方弘は期待を寄せる。

だが、この活況は一時的なものに終わる可能性が高い。東アジア全域に生息する種、ニホンウナギ。そして、欧州全域に生息する種、ヨーロッパウナギ。日本人が食べる「二大ウナギ」が絶滅の瀬戸際にあるからだ。

ニッポンが世界のウナギを食い尽くす日_吉野川のシラスウナギ漁の様子_画像3淡水と海水を行き来するウナギの生態は謎が多い。ニホンウナギの場合、産卵期になると川を下り北西太平洋のマリアナ諸島周辺の海嶺(かいれい)に向かうとされる。海で生まれた稚魚はシラスと呼ばれ、初冬から春先にかけて川へ遡上してくる。漁師はそれを網ですくい、問屋を通じて養殖業者に売る。育ったウナギは再び問屋を通じてスーパーや料理店、かば焼き加工業者などに出荷され、消費者の口に届く。

川で捕らえる天然ウナギは数が限られる。水産総合研究センター増養殖研究所の研究グループが2010年に完全養殖に成功しているが、商業ベースに乗せるにはほど遠い。つまり、シラス漁の出来不出来が、ウナギ相場全体を左右する。

法外な値段をふっかけた仲介業者

ニホンウナギのシラス漁が変調をきたしはじめたのは2010年ごろ。ピーク時には川に遡上するシラスをバケツで簡単にすくえるほどだったが、魚影が見にくくなる日が増え、量の確保に苦労するようになった。深刻な不漁に陥ったのが11年末で、翌12年からかば焼きやうな丼の値段がぐんぐん高くなったのは記憶に新しい。

漁師と養殖業者の間をつなぐ一部のシラス仲介業者にとっては千載一遇のチャンス。海外でとれたシラスを扱う華僑は足元を見てべらぼうな値段をふっかけた。「以前は国内のシラス問屋の口銭は1キロ10万円が相場だったのに、最近までは50万円もサヤを抜いていた」(東京・築地市場の仲卸店)

慌てた環境省は13年2月にニホンウナギを絶滅危惧種に指定したが、有識者からは「もう手遅れ」との声が漏れる。

昨年秋に始まったシラス漁は一転して「捕れすぎ」の状況にかわったが、絶滅の危機が去ったと考える関係者はほとんどいない。ウナギ研究の第一人者、日本大学生物資源科学部教授の塚本勝巳は「海水温の変化で太平洋海域での産卵場所が北上し、アジアに向かう潮の流れにシラスが乗りやすくなったのが影響したのではないか」と話す。

なぜ絶滅の危機に陥ったのか。環境汚染や気候の変化が一因と考えられているが、それらを上回る大きな要因は日本人の胃袋を満たすためのシラスの乱獲だ。

江戸時代中頃に活躍した学者、平賀源内が夏場のウナギ販売キャンペーンとして「本日丑の日」の貼り紙を思いついたとのエピソードからも分かるとおり、ウナギは古くから日本人に愛されてきた。ただ、健康食品やハレの日に食べる高級食材としての位置づけが長く、日常の食卓に上がる食材として大量消費されるようになったのは本格的な養殖技術が定着した1980年代以降のことだ。

90年代には、コストを抑えるために中国や台湾で養殖し、活ウナギや加工かば焼きとして日本に輸出する流通経路が確立。スーパーでのかば焼きの特売が増え、外食チェーンやコンビニエンスストアが500円以下の「ワンコインうな丼」を取り扱うようになったのもこの頃だ。中国産かば焼きが100円ショップで売られたこともあった。

だが、こうした消費の裾野の広がりが、シラスの買いあさりに拍車をかけた。当時、日本で捕れるニホンウナギのシラスは毎年20トン前後だったが、アジア各地や欧州からもかき集め、2000年前後にはシラス150トン相当のウナギが日本で消費されたこともある。

欧州や中国でもウナギは食べられるが、食材の1つや郷土料理の一品としてであり、ウナギだけで何千もの専門店が経営できるのは日本だけ。業界推計などによると、世界のウナギ消費量の7割を日本が占める。欧米での健康志向や中国の消費拡大などで需給がタイトになっているマグロ類、牛肉、乳製品などとは話がちがうのだ。

さらに、ここを稼ぎ時とみた関連業者の暗躍も資源枯渇に拍車をかける。近年の相場高騰と今春の大幅下落には、一段の高騰を当て込んでシラスを高値で売買した結果という側面もある。

密輸業者が暗躍

例えば昨シーズン(12年12月~13年5月)、日本では13トン弱のシラスが養殖池に入ったが、水産庁の資料によるとその6~7割は輸入物だ。貿易統計をみると輸入元は香港だが、香港ではシラスは捕れない。これはどういうことか。

水産庁は「中国や台湾で捕れたシラスが香港経由で日本に入ってきていると考えられる」と認める。中国、台湾ではシラスの輸出を禁じているため、規制のない香港が経由地となったわけだ。事情通の市場関係者が手口を明かしてくれた。「飛行機に比べてチェックの甘い船で香港まで持ち込むことが多い。中には洋上で引き渡すケースもある」

ニッポンが世界のウナギを食い尽くす日_画像4こうした不透明な取引で絶滅の縁に追いやられているのは、ニホンウナギだけではない。ヨーロッパウナギも厄災を被っている。

ニホンウナギより割安なヨーロッパウナギは90年代、欧州から中国にシラスを輸出して養殖し、成魚を日本へ輸出する供給網が確立。コンビニや外食チェーンの格安うな丼を支えた。その結果は、乱獲による絶滅の危機の深刻化。国際的な商取引を規制するワシントン条約の対象になり、2010年12月以降、欧州からのシラスの輸出は禁止されている。

ということは、欧州から中国、そして日本へという経路は途切れたはずなのだが、実態はそうなっていない。東京都内のウナギ輸入業者は「ヨーロッパウナギのシラスは、欧州からモロッコやチュニジアを経由して今も中国にやってきている」と明かす。ニッポンの胃袋を当て込んだ密輸が絶えないのだ。

密輸の実態を裏付ける調査がある。北里大学海洋生命科学部講師、吉永龍起は昨年、大手スーパーや弁当店、外食チェーンで流通するウナギのDNAを解析した。13社23商品のかば焼き製品のうち、すき家、吉野家、イトーヨーカドーなど8社が扱う9製品の原料がヨーロッパウナギとの結果が出た。さらに今年の調査では、吉野家の製品はヨーロッパウナギとアメリカウナギが混在していることが分かったという。

表向きは「10年12月より以前に中国に入ったシラスがようやく食べられる大きさになった。ワシントン条約の対象になる前なのだから問題ない」との理屈が成り立つが、養殖期間がすべて3年以上というのは不自然に長い。スーパーや外食チェーンはウナギの流通経路を完全に把握しているわけではないので、「善意の第三者」とも主張できるだろうが、結果としてはウナギ希少種絶滅の一端を担っていることになる。

前年の4倍に達した養殖池のシラス

こうした不透明な取引に一時的なシラス漁の回復も相まって、今春までに日本とアジアの養殖池に入ったシラスの量は実に前年の4倍に達した。需給逼迫が供給過多に変わったのだから、相場下落は当然の流れ。活ウナギの価格は5月下旬から下落に転じ始め、その後の1カ月で約2割も安くなった。さらに、土用の丑に向かって相場は下げ足を速めている。この日を過ぎると値下がりに拍車がかかるため、養殖業者はできるだけ早く出荷してしまいたいのだ。東京都内の活ウナギ問屋は「今出回っているのは成長が十分でない細いウナギばかり」とこぼす。

高値で仕入れたシラスを育てたウナギの相場が下がれば養殖業者は逆ざやになる。これはシラス不漁期に暴利をむさぼった一部のシラス仲介業者にとっても困った展開だ。

「多くの仲介業者はシラスを売った養殖業者のウナギを買い戻して流通させている。近年はシラスの仕入れ費用を融資していたケースも多く、ウナギの値段が下がると資金が回収できなくなる恐れが出てくる」(愛知県のウナギ問屋)。ウナギの高値を前提にした取引があだとなったわけだ。

6月12日、世界の科学者らで組織する国際自然保護連合(IUCN)がニホンウナギを絶滅の恐れがある野生動物(レッドリスト)に指定した。2年後にはワシントン条約によって輸入禁止や輸入規制の対象になる可能性が高いとされる。世界のウナギをかき集め食い尽くそうとするニッポンへの警告とも読める。

ウナギに安値を求める時代は終わったようだ。「ウナギを食べるのは特別な日」――。以前のように、ハレの日の高級食材に回帰することが、資源確保と食文化を両立させる現実的な選択肢かもしれない。=敬称略

(吉野浩一郎、黒井将人、石塚史人)

http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK04H0H_U4A700C1000000/

コメントを残す