「AIJ投資顧問」企業年金資金消失問題に思う

「AIJ投資顧問」のHPで公開されている事業報告書を見ただけでも投資一任契約しようとは思えないのだが…

2千億円にも及ぶ資金消失は「AIJ年金資金消失事件」と呼んだ方がよさそうだ。 詳細、続報は各紙が行っているので敢えて述べることもあるまい。 新聞報道によると投資運用業者は299社あるそうだが、「社団法人 日本証券投資顧問業協会」のHP掲載情報によると『平成23年3月末現在の会員数は、749社(投資運用会員247社、投資助言・代理会員502社)で、バラエティに富み、また国際色あふれた組織となっています。』 だそうである。

今回の事件のように投資一任会社に投資運用を任せている資産総額は以下のように149兆1,233億円もある。

「投資運用会員に関わる統計数値」(日本証券投資顧問業協会) http://jsiaa.mediagalaxy.ne.jp/profile/pdf/youran23/hyousimokuji.pdf)

平成22年6月末比で5兆4,720億円/+3.81%増となっているが会員業者の報告を集計しただけなのだから、こういう事件が起きてからでは怪しいものだ。

日本証券投資顧問業協会の掲載している「投資運用会社要覧」を見れば AIJ の登録情報が読むことが出来る。 http://jsiaa.mediagalaxy.ne.jp/profile/pdf/youran23/12a.pdf の112~116ページに記載されている。 115ページに記載されているAIJの「投資哲学」「運用戦略」にはこう書かれている。

赤線を引いているところに注目してもらいたい。 「オルタナティブ運用」はヘッジ・ファンドがやる取引つまりAIM (Alternative Investment Market 1995年にロンドン証券取引所に創設された中小企業向けの新興市場) を示唆しているし、「派生商品による運用」、「日経225オプション」はデリバティブのオプション取引を示唆している。 いわゆる差金決済(レバレッジ効果)を使った極めてリスクの高い金融商品だ。

レバレッジの失敗による巨額の損失で破たんした例は一杯ある。 1995年に破綻し、イギリスの名門投資銀行ベアリングス、金融工学を駆使した取引(デリバティブ)で大損失を出し1994年に財政破綻を起こしたことがある米国カリフォルニア州・オレンジ郡。 リーマンズ・ショックでレバレッジ破たんした例も記憶に新しいはずだ。

収益の悪化に苦しむ企業年金基金がが投資顧問会社が示した高利回りにだけ目をやり貴重な年金を「投資一任」するとは、正に貧すれば貪するというもので、丁半博打の賭場に金を置いたに他ならない。 詐欺商売していたAIJが一番悪いに決まっているが、企業年金基金の責任者は「高利回りだったし、好成績の運用という報告しか受けていなかったので…」では済まされない、何故ならハイリスク・ハイリターン金融商品だという事を知っていなければならない義務がある。 次にこのAIJを選び、一任した責任がある。 はたして年金基金の責任者は一度でもAIJの年次事業報告書を読んだことあるのだろうか? 恐らくないだろう。 事業報告書はAIJのHP でいつでも見ることができる。 以下、事業報告書(JPG版、クリックで拡大を掲載する。

この事業報告書を読むと私のような門外漢でも気付くポイントが数点ある。

    

  • (1列中央参照)  AIJの浅川和彦代表取締役と高橋成子取締役は「兼職の状況」の欄に「AIM Investment Advisory Ltd」の取締役兼務を明記している。 果たして、この会社がなんなのか年金基金の諸氏はその裏をとったか。 ネットを調べれば分かるがケイマン諸島あ たりの胡散臭い投資会社に行き着く。

              

  • (2列左端参照)  「投資哲学」、「運用戦略」では恐らく意図的にデリバティブという言葉を出さないようにしていたのだろうが、この事業報告書は国の指定した書式なので「デリバティブ」が明記されている。 ここで基金側の人間は「レバレッジ」のリスクがある投資運用をしていると気付かなかったのか。 AIJの投資運用の詳細を確認すべきではないか。

    

  • 2列右端から3列、下の4列左端までは決算報告書であが外部監査を受けたものではない。 大金を扱う会社のそんな決算報告書を鵜呑み にするか? 金融取引法は「投資助言・代理業を行う者は、事業年度ごとに事業報告書を作成し、毎事業年度経過後3か月以内に提出する」と定めているが外 部監査を必要としていない。 これも大問題だ。 金融庁の査察云々よりも、外部監査なしで事業報告書を可とする金融取引法はザル法ではないか。

    

このブログに書いていることはこの事件が起きてからの後出しジャンケンではない。 もし私が数億、数十億のお金を一任投資するなら当然、事前にやる最低限度のことだ。 また、以上のことは1時間もしないで出来ることだ。 こういう事もしないで一任投資するのは、オレオレ詐欺に引っかかるジジ、ババ様達と同程度ではなかろうか。

この事件を機に金融庁は投資顧問会社の一斉調査をするそうだが、企業年金基金が「一任投資」している帳簿上の資産149兆1,233億円の5%がAIJのようだと7兆円は吹っ飛んでしまう事になる(既に吹っ飛んでいるかも知れない)。 金融取引法を改正して事業報告書の外部監査を義務付けるべきだ。 次に、「日本証券投資顧問業協会」が何のためにあるのかが問題だ。 その目的の一つに「投資者の保護」をうたっているが、会員証券投資顧問業社をチェックする機能は不全、単に財務省や金融庁の天下り先になっているだけではないのか。

日本のあらゆる組織全体の最大の欠点、それはチェック・アンド・バランスというシステムの欠如であると私は思う。 さらに、企業年金基金は高度成長時代の残滓でしかない、さっさと解散・消滅した方がいい。 これからの時代に高い利回り求めるのは夢のまた夢、ギャンブル以外の何物でもない。

[追記]  ブログ執筆中で気付かなかったが、ウォールストリートジャーナルが以下の記事を配信していた。

「格付け機関が09年に「日本版マドフ」と警告 AIJ運用資産消失
(WSJ 2012年 2月 25日)

【東京】運用していた企業年金資産の大半を消失させた投資顧問会社、AIJ投資顧問について、 格付け会社の格付投資情報センター(R&I)が2009年に発行したニュースレターの中で米国の巨額金融詐欺事件になぞらえて、日本のマドフ事件になりかねないと警告していたことがわかった。

日本の金融当局は24日、AIJが運用する年金資産1830億円の大半が消失しているとして、同社に業務停止命令を出した。

R&Iは2009年の顧客向けニュースレターの中で、市場が落ち込んでいるにもかかわらず、AIJの運用利回りは不自然に安定していると警告した。ニュースレター「年金情報」編集長の永森秀和氏は、ニュースレターでは名指しこそしなかったものの、ほとんどの年金専門家にとってはAIJだとわかるような書き方だったと述べた。

R&Iがニュースレターで警告する1年前に、R&Iが実施した年金基金の顧客満足度調査ではAIJが1位となった。投資業界に詳しい複数の銀行関係者によると、AIJが常に高収益を上げていることは大手の資産運用会社の間で知られていたという。

「年金情報」の永森氏はウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューで、R&IがAIJについて懸念を抱いたのは、同社の運用利回りが市況がどのような状況でも10年にわたって平均リターンを上回っていると年金基金の顧客から聞いてからだったと述べた。永森氏は日本の金融当局者ともこの懸念について議論したと述べた。

永森氏によると、複数の年金基金の顧客がR&Iに示した報告書では、AIJは運用する3つのファンドが2009年から2011にかけておよそ5%から10%の年間利回りを達成したと主張していたという。永森氏は、日本の投資運用会社のうち3年連続でプラスの収益を上げていたところはほとんどなかったと述べた。

投資運用業界内部ではAIJについて疑問の声が上がっており、怪しいところがあるとの見方が出ていたことから、警告を発する必要があると感じたと永森氏は話している。

あまり知られていなかった投資顧問会社で今回、多額の運用資産消失問題が起きたことは、日本の金融監督状況の実態を浮き彫りにしている……(cont’d)

http://jp.wsj.com/Japan/node_398677

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