<北朝鮮軍事物資不正輸出|安保理の専門家パネル報告書>国連安保理・制裁委員会の専門家パネルの年次報告書が公表された…

公表に反対していた中国が同意したため、国連安保理・制裁委員会の専門家パネル報告書が6月29日に公表された。 北朝鮮軍事物資不正輸出に関与する中国の影は既に報道されているが、この報告書によって北朝鮮が中国の大連港などを経由して不正輸出を行っていいる疑いが明らかにされている。

電子版のニュースは現時点では詳しく報道していないが、NHKニュースや朝鮮日報が比較的詳しく報道している。 また、英語版はこの時点ではロイターの記事ぐらいだった。 ちなみに、国連安保理のウェブサイトを詳細に調べてみたが「年次報告書」は掲載されていなかった。 以下、NHK、朝鮮日報、ロイター(英文)の記事――

北朝鮮軍事物資不正輸出の疑い
(NHK 6月30日 8時5分)

国連安全保障理事会は、北朝鮮が弾道ミサイル関連などの軍事物資を中国の大連を経由地として、中東のシリアなどに不正に輸出している疑いがあるとする報告書を公表しました。 この報告書は、北朝鮮に対する制裁が履行されているかどうかを調べるため、国連安保理の制裁委員会が設置した専門家パネルがまとめ、29日に公表したものです。

それによりますと、2007年10月に拿捕(だほ)した貨物船からは、弾道ミサイルの推進剤として使用できる「ダブルベース火薬」と呼ばれる火薬が大量に見つかり、北朝鮮から中国の大連を経由し、最終的にはシリアへ運ばれるものだったことが分かったとしています。 また、この貨物船には北朝鮮の加工食品なども積まれていたことから、報告書は最終目的地のシリアに、北朝鮮の関係者がいた可能性があると指摘しています。

このほか、2009年11月にギリシャ政府が拿捕した貨物船の中からは、1万3000着の化学防護用のコートやガスマスクなどが見つかり、調査の結果、これらも北朝鮮から中国の大連港を経由し、シリアに向かう途中だったとしています。

さらに、日本の海上保安庁などの調べで、中国から北朝鮮に貨物船で運ばれていたことが分かった弾道ミサイルの発射台を兼ねたとみられる大型の特殊車両について、報告書は「北朝鮮のこれまでの技術ではつくれなかったものだ」と指摘し、中国への言及はなかったものの「さらに検証する」と明記しました。

この報告書は先月、まとめられたものの、中国政府が公表することに反対し、欧米の理事国や日本などの説得で、今回ようやく公表が決まりました。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20120630/t10013229071000.html

北朝鮮の武器・ぜいたく品取引、大半が大連港経由
(朝鮮日報 2012/06/30 09:09)

北朝鮮が国連安全保障理事会の制裁決議に違反する貨物を輸送する際、中国が決定的な支援を行っているとする報告書が29日、国連から発表された。

違法な武器輸出の実態

国連が公開した安保理北朝鮮制裁委員会専門家パネルの年次報告書によると、北朝鮮との武器、ぜいたく品の取引を全面禁止した安保理決議に違反した疑いがある38件の取引のうち21件に中国が関与していたことが判明した。また、北朝鮮は武器やぜいたく品を輸出入する際、中国の港湾を経由地として主に利用しており、13件のうち11件が大連港を利用していた。

これまで韓米のマスコミ報道などで、北朝鮮が国連の制裁に違反する違法な武器・ぜいたく品の貿易に中国の港湾が利用されていることが知られており、韓米政府も間接的に事実を認めていたが、今回の国連報告書はそれを公式に確認したものだ。

報告書によると、北朝鮮は制裁違反の貨物をまず大連港に運んだ後、別の船舶に積み替え、国際的な海運網を利用し、違法な輸出入を行ってきた。数人のブローカーが書類のロンダリングを行い、貨物に北朝鮮の企業・団体が関与していることを確認しにくい状況になっていたという。

高濃縮ウラン核弾頭開発の可能性

報告書はまた、北朝鮮が寧辺以外にもひそかにウラン濃縮施設を保有しており、パキスタンで「核開発の父」として知られるカーン博士のネットワークから高濃縮ウラン核弾頭の設計技術を入手し、近い将来ミサイルへの搭載が可能になるとの説に注目しているとした。米国の核軍縮シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)のデービッド・オルブライト所長は2010年10月のセミナーで「ミサイル技術移転の見返りに、北朝鮮にウラン技術を供与したとされるカーン博士の秘密取引ネットワークが07年にスイスで摘発された際、コンピューターのファイルに精巧な新型核兵器の製造設計データ2件が含まれていた。どうやって完成されたものかは不明だ」と述べている。国連の専門家パネルは今回の報告書でオルブライト所長の主張を引用したとみられる。

弾道ミサイル開発

報告書はまた、今年4月15日に平壌で行われた大規模軍事パレードに登場した新型ミサイルとミサイル搭載車両に注目。特にミサイル搭載車両について、追加調査を実施するとした。北朝鮮は16輪の同車両に大陸間弾道ミサイル(ICBM)クラスの新型ミサイルを載せて公開。搭載車両は中国企業が製造した車両と酷似しており、中国から輸出されたものではないかとの疑惑が指摘された。

報告書は北朝鮮とイランのミサイルコネクションをめぐり、今年4月に発射された「銀河3号」の1段目ロケットがイランのロケット「シモルグ」と似ているとした。これまで韓米日の専門家は、銀河3号とイランの1段目ロケットは、北朝鮮のノドンミサイルのエンジン4基を結合したものだと推定していた。

中国も報告書採択に賛成

国連の北朝鮮制裁委専門家パネルは、北朝鮮が核実験を実施して以降、安保理が採択した対北朝鮮制裁決議を履行しているか否かを監督するため、09年に設置された。パネルには安保理常任理事国5カ国のほか、韓国、日本など7カ国の専門家が参加し、2010年から毎年報告書を発表している。昨年の報告書は、中国が署名を拒否し採択されなかったが、今年は中国も署名を拒否しなかった。

http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/06/30/2012063000311.html

U.N. publishes report on North Korea sanctions violations
(Reuters: Fri Jun 29, 2012 1:57pm EDT)

(Reuters) – After more than a month’s delay due to Chinese objections, the United Nations on Friday published a report on North Korea that says a panel of independent experts is investigating reports of possible North Korean arms deals with Syria and Myanmar.

The 74-page report, which was seen by Reuters last month, says North Korea “continues actively to defy the measures in the (U.N. sanctions) resolutions.” The so-called Panel of Experts submitted the report to the U.N. Security Council’s North Korea sanctions committee last month.

U.N. panel of experts’ sanctions reports are highly sensitive. China, which is named in the report as a transit hub for illicit North Korean arms-related breaches, has prevented the 15-nation Security Council from publishing past reports, U.N. envoys have told Reuters.

Last year’s report has never been published, although Reuters saw and reported on it at the time.

“The Chinese finally agreed to let the report reach the public,” a council diplomat told Reuters. “We’re pleased that people will be able to study and analyze it.”

The report says that Pyongyang continues to defy the U.N. sanctions, though the panel received no new reports of “violations involving transfer of nuclear, other (weapons of mass-destruction)-related or ballistic missile items.”

“Although the (sanctions) have not caused the DPRK (North Korea) to halt its banned activities, they appear to have slowed them and made illicit transactions significantly more difficult and expensive,” the panel’s report said.

One of the cases involving suspected illicit arms trade with Syria was reported to the council’s sanctions committee earlier this year.

Another case cited in the report involved a 2007 shipment of propellant usable for SCUD missiles and other items that could be used for ballistic missiles. The panel had referred to it in last year’s report but added details about a Syria connection and confirmed that it had been transported via China.

The panel also said it was looking at the possibility North Korea has a deal with Myanmar on conventional weapons cooperation in violation of Security Council sanctions passed in 2006 and 2009 after Pyongyang’s nuclear test in those years. Those sanctions include a ban on North Korean arms exports.

Ten thousand rolls of tobacco, 12 bottles of Sake, and some second-hand Mercedes Benz cars are among the latest breaches by North Korea of the luxury goods ban described in the report.

A similar panel of experts report on Iran has yet to be made public, though diplomats said they expect it will be soon.

(Reporting by Louis Charbonneau; Editing by Jackie Frank)

http://www.reuters.com/article/2012/06/29/us-korea-north-sanctions-idUSBRE85S16Q20120629

<北朝鮮ミサイル・核|中国はどこまで関与しているのか?>隠れ蓑の中国大連港、さらにシリア輸出への介在…

全体像を把握するためにはまず当ブログのこの二つの投稿記事を読んで頂きたい――

■ <北朝鮮の核・ミサイル開発巨額費用の謎>中国はどこまで関与しているのか?  (投稿日:2012/04/23)

■ <中国、北朝鮮に軍用車両 昨年8月 安保理決議に違反> (朝日6/13) (投稿日:2012/06/13)

それから、下記掲載の産経の二つの記事を読むと話が見えてくると思う。

北朝鮮制裁逃れの温床、中国大連港…賄賂で目こぼし証言も 
(産経 2012.6.14 08:1)

国連安保理制裁決議で禁じられている北朝鮮への軍需物資の輸出入に中国が大きく関与している実態が、6カ国協議参加国当局の報告書で判明した。報告書が不正輸出の「拠点」と名指しするのが中国・大連港だ。北朝鮮は大連の中国企業を隠れみのにして、輸出入元の国名を北朝鮮から「中国」と偽装。中国税関当局者が賄賂を得て黙認しているとの証言もあり、中国側の関与の根深さが浮かぶ。(桜井紀雄)

 「北朝鮮の貿易会社は軍需物資を取引する際、貨物名を電子製品や農業機械などと虚偽記載する。取引する中国企業が結託しているからこそ可能なことだ」

報告書によると、大連港のある中国遼寧省の中朝貿易関係者が今年2月、こう証言したという。

朝鮮鉱業開発貿易会社や朝鮮嶺峰総合会社など、安保理の制裁対象に指定された北朝鮮貿易企業は、証言のように貨物名を虚偽記載したり、輸出入元を中国と偽ったりするほか、中国企業名で物資を購入し、制裁逃れを図ってきたという。

国連安保理の北朝鮮制裁委員会などの報告でも大連が不正輸出入の拠点になっていると指摘されてきた。北朝鮮が2009年7月、南浦港からイランにロケット弾や起爆装置を輸出しようとし、アラブ首長国連邦当局に摘発された際、大連港で第三国船籍の船に積み替えられていた。今年5月に制裁対象となった北朝鮮企業「グリーン・パイン・アソシエーティッド」が軍艦部品をアフリカに輸出した際も大連の中国企業名が使われた。

6カ国協議参加国の報告書によると、「大連港を通じて対象物資を搬入する際、事前に連携している大連税関幹部の勤務中に通関手続きをし、コンテナ1台に40万~60万元(500万~750万円)の賄賂が必要」といった複数の証言があり、大連税関当局の関与が濃厚となっている。

報告書は、相当数の偽造口座が中国系銀行に開設され、武器取引や、制裁で禁じられているぜいたく品の北朝鮮輸入などの取引に利用されていると指摘。口座への追跡調査を逃れるため、北京から平壌へ空路で直接、巨額の資金を持ち出すケースもあり、背景に空港税関など中国当局の黙認があるとも指摘している。

国連安保理の北朝鮮制裁委は、大連を通じた武器輸出について中国に調査を求めているが、中国側は別の国の運送企業に責任を転嫁するか、回答しないのが実情だという。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120614/kor12061408120000-n1.htm

中国が北朝鮮にミサイル関連物資、シリア輸出の介在も…安保理決議に違反
(産経 2012.6.14 09:09)

 中国が昨年、長距離弾道ミサイルの発射台車両や、ミサイル製造に使われる物質バナジウム2トンを北朝鮮に輸出するなど広範囲な軍用物資取引に関わっていたことが13日、産経新聞が入手した6カ国協議参加国当局作成の報告書で分かった。北朝鮮への大量破壊兵器関連物資の輸出などを禁じた国連安全保障理事会制裁決議が、中国の関与で骨抜きになっている実態が裏付けられた。

報告書によると、北朝鮮でミサイル開発を担う第2経済委員会に所属し、平壌に本社のある企業「朝鮮鉱業開発貿易会社」がダミー会社を通じて昨年8月、長距離弾道ミサイルの発射台に転用可能な特殊大型車両4台を中国から輸入した。

また、複数の日本政府関係者によると、特殊車両は中国国有企業「中国航天科工集団」の子会社が開発したもので、第5管区海上保安本部が昨年10月3日、北朝鮮から大阪港に入港したカンボジア船籍の貨物船を立ち入り検査したところ、中国側からの輸出を示す記録が見つかったという。

特殊車両の輸出以外にも報告書によれば、同じく平壌に本社のある北朝鮮企業「朝鮮嶺峰総合会社」が同年5月、ミサイル製造に利用できるバナジウム約2トンを中国から輸入。バナジウムはミサイルの合金などを製造する際、強度を高めるために加えられるレアメタル。同社は中東への兵器輸出も指摘されている。

■ シリア輸出も介在

報告書は、大量破壊兵器の開発を担う北朝鮮第2自然科学院傘下の企業「朝鮮檀(タン)君(グン)貿易会社」が2009年11月、軍用防護服約1万4千着を中国・大連港経由でシリアに輸出しようとしていたことも明らかにしている。輸送途中のギリシャで押収され、発覚した。

北朝鮮の3社はいずれも北朝鮮による09年4月のミサイル発射や同年5月の核実験を受け、国連安保理の北朝鮮制裁委員会が資産凍結対象に指定した団体だ。

金融取引でも、制裁対象の北朝鮮の金融機関「端川商業銀行」が中国の主要都市にダミー会社を設立し、同社名義で口座を開設。北朝鮮の軍需企業の資金決済に充てているという。同行のダミー会社の一つで制裁対象でもある「香港エレクトロニクス」は、過去にイランへの武器輸出代金の入金に海外の偽装口座を用いていた実態が判明している。いずれも、中国当局の黙認や中国企業の関与なしには難しく、報告書は中国が北朝鮮の制裁逃れの温床になっている点を強調している。

さらに、中朝の貿易実態に詳しい韓国当局筋によれば、北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射を強行した今年4月13日には、中国丹東市の保税地域から北朝鮮に向け四輪駆動車約100台が輸出されていた。

四駆車は民生用を装っていたが、北朝鮮の国防委員会傘下とされる「朝鮮黎明貿易」など軍需関連企業が関与していたことから中国当局は軍需物資と認識、書類処理上も特別扱いだったという。北朝鮮側で後部を銃座などに改造し部隊に送られたとみられる。

■ 日米韓50、公表せず

一方、中国による北朝鮮へのミサイル発射台車両の輸出を昨年10月に把握していた日本政府は、米国、韓国とも情報を共有していながら、公表していなかった。

外務省幹部は13日、「ただちに安保理決議違反とはいえないと判断した。トラックを輸出しても北朝鮮が改造した可能性もある」と釈明。別の政府高官は「この事実を国連にすぐ報告しても意味がない。いかにカードとして使うかが問題だ」と述べた。

発射台車両は4月15日に行われた北朝鮮の軍事パレードで公開されたが、パネッタ米国防長官が同月19日の下院公聴会で「中国の協力があったと確信している」と証言していた。

弾道ミサイル物資の対北輸出は国連安保理制裁決議に違反している。ただ、決議は国連の全加盟国に履行を義務づけているものの、各国の自主性に委ねられ、不履行国に対する罰則規定がないため、実効性を疑問視する声が上がっていた。

http://sankei.jp.msn.com/world/news/120614/kor12061409130001-n3.htm

さらに、朝日電子版はこういう事も報道している。

金総書記称賛の手紙も発見 軍用特殊車両密輸の船から
(朝日 2012年6月14日8時6分)

中国が昨年8月、弾道ミサイルの運搬・発射用の大型特殊車両4両を北朝鮮に輸出した際に使ったカンボジア船籍の貨物船「HARMONY WISH」(1999トン)から、中国人船長が書いた北朝鮮の故金正日(キム・ジョンイル)総書記宛ての手紙が見つかり、日本政府が入手していたことがわかった。

政府関係者によると、手紙は昨年1月12日、名古屋港に入っていたこの船に対し、第4管区海上保安本部が船長の同意を得て行った立ち入り検査で発見された。2010年12月中旬、この船が北朝鮮東部の元山港に入った際に船長名で作成されたもので、船長は北朝鮮側の関係者に書かされたと説明したという。

政府はこうした経緯から、この船が北朝鮮と極めて密接な関係にあり、軍事物資運搬に使われている可能性があると判断。海上保安庁がこの船を徹底的にマークしてきた。その結果、昨年10月に大阪港で、第5管区海上保安本部による大型特殊車両4両輸出の事実を示す文書の入手につながった。

名古屋港で見つかった手紙は、中国人船長が10年12月24日の金総書記の北朝鮮軍最高司令官就任19周年を祝福する内容で、「金正日最高司令官同志は、非凡な英知と深謀遠慮をお持ちでいらっしゃる」と称賛していた。ただ、この手紙が実際に金総書記に送られたかどうかは分からない。さらに「朝鮮は帝国主義者による多くの有害な陰謀にもかかわらず、あらゆる領域で輝かしい成功を収めています」とし、「これも聡明な指導者によるものです」と金総書記をたたえていた。

港湾管理会社などによると、「HARMONY WISH」は8日朝に岡山県備前市の東備港に入った。中国から耐火物原料を積んできたという。積み荷を下ろし、13日午後4時10分ごろ、出港した。行き先は明らかにされていない。(牧野愛博)

http://www.asahi.com/special/08001/TKY201206130864.html