野田政権は16日、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を正式に決めた。関電は再稼働の作業を始め、早ければ3号機が7月8日、4号機が7月24日にフル出力に達する見通しだ。 昨年の東京電力福島第一原発事故を受け、国内の原発は定期検査ですべて停止していたが、再稼働へと踏み出した。 野田佳彦首相は16日午前に西川一誠福井県知事と会談し、西川知事が「関西の皆さまの生活と産業の安定に資するため、同意する決意を伝えたい」と表明した。 続いて関係閣僚会合が開かれ、野田首相は「再稼働することを政府の最終的判断とする」と述べ、正式に再稼働を宣言した。
また、枝野経済産業相は16日の再稼働決定後の記者会見で大飯原発周辺に「特別な監視体制」を新たに設け、牧野聖修・経産副大臣を責任者として、原子力安全・保安院や福井県、関電などの約20人が再稼働作業を監視することを表明した。 2基のフル稼働後、関電管内の節電目標(猛暑だった2010年比)は「5~10%」に緩和される方向だ。関電に電力を融通する予定の北陸、中部、中国の3電力の「5%」の数値目標は撤廃され、四国電力の「7%」の目標は「5%」に引き下げられる見通し。 再稼働作業の遅れや、他の火力発電所のトラブルの可能性があるため、枝野経産相は「電力が供給できて初めて節電への対応が変わる」と述べ、節電目標の見直しはフル稼働確認後に行う方針を表明した。
<首相、危うい再稼働決断>
■ 党内外の批判無視
16日、首相官邸。野田佳彦首相は関係閣僚会合で、関西電力大飯原発の再稼働を宣言すると、こう付け加えた。「国民の原子力行政、安全規制への信頼回復ヘ、さらなる取り組みを進めていく決意だ」
自ら「国論を二分する」とした再稼働を決断した代償は小さくない。
前日に消費増税関連法案で合意を取り付けたばかりの自民党からは、石原伸晃幹事長が「ひどいね。菅政権以来の混乱が集約された。本来は新しい原子力規制組織のもとで再稼働すべきだ」。原発を重視するエネルギー政策では同じなのに、足元を見透かされた。
「脱原発」を掲げる各党は勢いを増す。みんなの党の渡辺喜美代表は16日、「役人と電力会社に引きずられるがまま、政治判断と称して原発再稼働した」と反発。社民党の福島瑞穂党首は「官邸、経産省、県知事、関西電力の談合だ。民意を無視する野田政権になった」と記者団に語った。
共産党の志位和夫委員長は「福島原発事故の原因究明もされていない。野田政権は国民の生活を守るどころか命と安全を危険にさらす」との談話を発表した。
民主党の原発政策は揺れてきた。東京電力福島第一原発事故が起きると、当時の菅直人首相は昨年7月に「将来は原発のない社会を目指す」と宣言。野田首相も、この「脱原発依存」の路線を引き継いだ。
だが、その後に具体的な方策は示されず、政権は8月末にまとめるエネルギー基本計画を待つ構え。大飯原発の再稼働に突き進む姿ばかり目立った。
4月に「国民の一定の理解が得られなければ再稼働はしない」と表明した枝野幸男経済産業相も、16日の再稼働決定後の会見では、再稼働への国民の理解について「物差しはない。政治の責任で判断する」と苦しい。大きな決断をしたのに、会見で首相から国民に説明をすることはなかった。
こんな首相の姿勢に、ある民主党参院議員は「野田さんに振り因されている」と指摘する。首相は今月5日の経団連の総会で、「再稼働も(消費増税と社会保障の)一体改革も反対が多いが、国家国民を考えればやらなければいけない」とあいさつ。「決意の連発」にガスがたまっている。
社会保障政策では民主党のマニフェストが棚上げされ、議員らは地元で野党の「公約違反」攻撃にさらされている。今回の再稼働表明に、民主党の若手議員からは「なぜ選挙で不利な話を拙速に増やすのか」といった恨み節が漏れている。
福井県の西川一誠知事との16日の会談で、野田首相は「国民生活を守るために再稼働は必要だと考えている」と強調した。 首相はことあるごとに中長期的には原発への依存を減らす「脱原発依存」を語ってきたが、この日の会談では政府側のだれひとり、この言葉に触れずじまいだった。
知事は4日、再稼働に同意する条件として「国民に向けた意見表明」を首相に求めた。 「脱原発」か「基幹電源」か、原発の位置づけが定まらない政権の姿勢に業を煮やしたからだ。
原発は福井県の基幹産業の一つだが、大飯原発3、4号機のほか、商業炉日基と「もんじゅ」が長期停止中だ。 今夏の電力不足に備えるだけなら、関西の首長が言う通り大飯の2基の限定的な稼働で足りる。 だが、西川知事は「スーパーの大売り出しではない」と切って捨てた。 14基金体の行方は福井の死活問題だ。
政権は水面下で福井側と連絡を取り合い、大飯再稼働に向けた条件整備を進めた。 昨年末には知事の悲願だった北陸新幹線の延伸を決定。 おおい町長らが再稼働の条件に挙げた原発周辺道路の整備も、事業費422億円を国と事業者が全額負担することを確約した。
今年4月に入ると関係閣僚会合を連日開催し、知事が求める安全基準を2週間足らずでとりまとめた。 だが、再稼働に突き進む政権に周辺自治体などから反発が噴出すると、政権の立ち位置が揺れ始める。 「原発が重要電源とは短期二の話」「できるだけ早く原=発依存度をゼロに」といった政権幹部の発言が伝わるたび、福井側は神経をとがらせた。
5月末に関西広域連合が事実上再稼働を容認しても、福井県内の手続きは進まない。 関西の節電開始からあと1カ月を切り、首相は8日の会見で、短期・中長期という整理を忘れたかのように原発の重要性を強調し、ようやく福井の同意を取り付けた。
とはいえ、政権が次の原発再稼働まで描ききれているわけではない。 四国電力伊方3号機は8月ごろ発足する原子力規制委員会が今後、安全性を判断することになるが、政権幹部はこんな懸念を示している。 「独立性の高い規制委が判断するのは安全性のみで、需給は考慮しない。 政権の思い通りに再稼働はできなくなる」
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大飯原発の再稼働が決まった。 そのプロセスは、どんな課題を残したのか。
(朝日新聞紙面版 2012-6-17 2面 ― 原発列島ニッポン「大飯再稼働」(上)をクリップ)
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【東北の声・宮城県仙台市の新聞】
大飯再稼働 経済優先見えぬ反省 結論ありき「神話」復活
(河北新報 2012年06月17日)
まるで何事もなかったかのように、原発が再び動きだす。政府は16日、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)の再稼働を決定した。結論ありきで安全よりも電力供給や経済性を優先させたような姿勢からは、福島第1原発事故の反省はうかがえない。
事故の原因究明は終わっておらず、政府の言う「安全」は暫定的な基準に立脚しているにすぎない。免震重要棟の設置など、再稼働に間に合わない対策も少なくない。過酷事故を想定した防災計画の見直しや避難訓練など、住民を守る具体策も不透明だ。
野田佳彦首相は8日、「福島のような地震・津波が起きても事故は防止できる」と断言した。事故から学ぶべきは「安全神話」は虚構、つまり想定外の事故は常に起こり得るということだ。再稼働のために、新たな安全神話を生み出したのでは元も子もない。
この夏の電力不足は1年以上前から想定できたはずだが、再稼働以外の道を真剣に考えたのか疑わしい。それでも「夏を乗り切るため」と言うならまだ分かる。しかし、野田首相は原発がなければ「産業空洞化が加速し、雇用の場が失われる」とありきたりの必要論を切々と説いた。
東北などでは、原発なしで今夏を乗り切れる可能性が高い。原発不要論にくぎを刺すための脅しでしかない。将来的に原発をどうするかは、政府のエネルギー・環境会議などで議論中だが、菅直人前首相の「脱原発依存」宣言から1年足らずでの変貌ぶりは、政権の本気度を疑わせる。
原発に地域振興を委ねてきた立地自治体が、原発を放棄するのは容易ではない。それでも立ち止まって考え直す契機と位置付け、大阪市などが求めた「同意」や安全協定締結を足掛かりに、周辺自治体の在り方も徹底的に議論すべきだ。結論ありきの再稼働は思考停止をもたらしかねない。
いまだ約16万人の福島県民がふるさとを追われ、避難生活を余儀なくされている。原子力災害は進行中だ。「福島」を昔話にしてはならない。
http://www.kahoku.co.jp/news/2012/06/20120617t71010.htm
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